太陽の下で傘

Umbrella in the sun

舞台「呪術廻戦」※ネガティブ多め

舞台化が発表された段階で、おーすごいな、どうやって舞台に起こすんだろう、なかなかだな~なんて考えていたあの頃。
藤田さんが夏油役というのも納得だったし、【ミュージカル】ではなく【舞台】と銘打っていることから、まあ思い込みと言われてしまえばそれまでですが、ストプレなんだろうなと思っていました。

久々に藤田さんのストプレの芝居が見られるなら嬉しいし、呪術廻戦という舞台に起こすにはかなりの技量が必要になりそうな題材を硬派な芝居で練り上げてくれるのなら、それはぜひ見てみたいなあ……!と藤田さんのFCに入り直してチケットを取りました。そうして公演を楽しみに待つ日々。

舞台「呪術廻戦」

  • 2022年7月26日 18:00開演 @天王洲 銀河劇場
  • CAST:佐藤流司、泰江和明、豊原江理佳、藤田玲
  • 脚本:喜安浩平
  • 演出:小林顕作
  • チケット:10,000円(S席)
  • ジャンル:ストプレ(だと思ってたんだけどなあ)

舞台「呪術廻戦」公式サイト

”舞台”呪術廻戦、じゃなかったの?

まずわたしが目にしたのは、初日が開けてすぐのこと、今回はじめていわゆる2.5次元舞台に足を運んだ人の感想がTwitterで目に飛び込んできました。

いわく、『こんなに歌うって知ってたらチケット取らなかった』、と。
もうこの段階でかなり雲行きが怪しくなっていきます。
おや…?《舞台》と言っているから迷うことなくストプレだと思っていたのは観客だけ…?

わたしはゲネプロ映像を見るのも結構好きなので、いくつかチャンネルフォローをしています。
真偽を確かめたい気持ちで、今作のゲネプロ映像を再生しました。

歌うと言っても程度によっては……そう思っていた時期がわたしにもありました


www.youtube.com

あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~

いや、ワンチャンね、ミュージカルが苦手な方ってミュージカルでなくとも歌ってるだけでだめって場合もあるかなと。
たとえストプレでも、OPEDだけキャストで歌うとかそういうレベルなら、まだ《舞台》と言ってもいいな~なんて軽く擁護する気持ちでいたのですが。とんでもなかった。

佐藤流司さん演じる虎杖が客席正面を見据えて一呼吸した瞬間、ミュージカルが好きな人ならばすぐにわかったと思います。
あ、これ歌うな……って。

歌う前の呼吸の仕方、身体のリズム、あるじゃないですか。
それがわかった瞬間あ~~~~~~~~~~終わったって思いましたね正直。

ゲネ映像を見るだけでも、ほとんどのキャラクターにソロ歌唱パートがあるレベルに歌っている。
かなりもうこれきっつ……と死にそうになりながら、じゃあせめて《ミュージカル》って銘打ってくれや!!!!!!!!!!!!!!と暴れてしまいました。

ラベリングと舞台製作における観客に対する”責任”

ラベリングってめちゃくちゃ重要ですよ。
ましてや、原作付きの舞台化って、普段舞台を見慣れていない層もたくさん来るものだと思うんです。

わたしがTwitterで見かけたかた然り、ミュージカルでないのなら……とはじめて舞台に足を運ぶかたも当然いらっしゃる。
なのにそんなはじめての経験が、苦痛の時間になってしまう。
想定されたものではなかった。あるいは自身の苦手を把握してそれを回避している人が、ラベリングのミスにより回避できなかったとしたら。

正直もう二度と行かん、で終わりですよね。
2.5次元舞台どころか、舞台というメディアそのもの、演劇を嫌うようになることも十二分にありえる。
これから先の未来でその人が出会えるはずだった素晴らしい作品にも出会えなくなる。
これはもう罪といってもいいレベルだとわたしは思います。

舞台芸術は映画ほど気安い値段ではありません。
テレビ番組のように家で見られるわけでもない。
ネットの配信のように好きな時間に見られるわけでもない。
そんな制約があるうえに、必ずしも満足できる内容であるかもわからないというギャンブル性まである。
それでも、観客は信じて1万前後のチケットを買い、足を運びます。

そんな観客に対して、作品に携わる人間は一定の責任があると思うんですが。

わたしにとっての呪術廻戦

わたしの呪術廻戦への接触歴(?)をまとめると、

  1. 劇場で別の映画を見た際に、0の予告を目にしたことから興味を持つ。
  2. 呪術廻戦0から読む(!?)
  3. アニメを完走
  4. アニメの続きあたりから最新刊まで一気読みする

といった感じ。
到底オタクと呼べるほどではありませんが、ある程度興味を持って作品に触れていました。
特にアニメの構成がかなりよかったように思います。

youtu.be

劇場で見た予告というのはまさにこのKing gnuの逆夢でのPVです。
(確かスパイダーマン:ファー・フロム・ホームを見たときでした)
King gnuが好きなので逆夢自体もとから気に入っていたのですが、それがテーマに使われた作品、美麗なグラフィック、そして何より緒方恵美さんの、

「…愛してるよ。里香」

で一目惚れしてしまい、気がつけば最新刊まで…という。
何度も読み直していたりするわけではないので、セリフまで明確に覚えているほどではありませんが、それなりに好きではあると思います。
今回の舞台でものすごい不満を募らせるくらいには…

総評:よくもここまでおもんなくしてくれたな

さて、観る前からかなりの不安を抱いていた今作ですが、案の定といったところでした。
正直ほとんど脚演に対する評価はできないです。わたしは。

先述した歌が多用されているにも関わらずラベリングミスがあることもそうですが、仮にミュージカルだと言われていたとしても酷い。
呪術廻戦にキャラソンがそもそも存在するかは存じ上げないのと、キャラソンというコンテンツを悪くいうつもりでは決してありませんが、まるで【キャラソンを舞台で流している】というような印象を受ける舞台でした。

舞台、というよりミュージカルにおける歌は、キャラソンとはまた異なる性質・目的で作られるものだと思います。
具体的に定義を提示できるわけじゃないんですけど…なんていうんだろうな…。

ゴリゴリに歌うし踊る、しかも曲がドカドカズンズン低音が鳴るロック調、声質的に埋もれやすいキャストさんもいたと思います。
断片的にしか何言ってるか聞こえないことは非常にストレスですし、憶測でなんとか聞き取ったところで、そこに力を割いているので感情移入し物語に没入することが難しくなる。
あとこの劇場の音響がそこまでいいと思えないのでなおさら聞きづらい…
歌詞で状況やストーリー展開を行っているのに、観客はどんどんついていけなくなってしまいます。

現実に取り残されたまま、目の前で何か事象が進んでしまっていくのを眺めるって一番冷めるよ。

さらに言えば、ネタのつもりなんだろうけどキャラクターが歌ってることに言及しちゃうの最悪のメタ発言すぎた。
他にもあったよ、「何その歌?」とか言って るの。
それがあるからあれがミュージカルであることも認められない。
そう、ミュージカル“風”なんだよな……

客入れのアレは…何…?

そういえば音響つながりで思い出したんですけど、客入れ音源なかったのびっくりしましたね。
謎の海岸の焚き火見せられてたけど何あれ? なんか呪術廻戦にそういう文脈あるんでしたっけ…
ずっとなんかパチ…パチパチ…っていう火花の音だけ流れる客席でした。ちょっとおもろ。
音質あんま良くないのかな。なんだこの音???????って入った時思いました。

客入れってだいたい音楽流すことのほうが多いと思うんですけど(もちろんわざと流さないパターンもありますが)。
今回は客席での会話を一切禁止してたのもあったんで、もしかしたらそのためなのかなーと思わないでもなかったです。
曲流れてるとどうしても「ちょっとくらいいいかな」が重なって喋る観客増えちゃいますもんね。

だとしてあの焚き火は謎。だれか知ってたら教えてほしいです。
でも仮に何かに所以するものだったとして、その謎の映像(海岸で焚き火パチパチ)が本編に一切接続されてないからその時点で演出としては終わってるのでは…

舞台セットや転換の雑さ

あのね、どうしても引っかかってるから言うんですが。
あのじゅんぺいくんのお母様のご遺体乗ったアレをハケさせるときに白い幕の前真っ黒のザ・黒子が腰をかがめて出てきて引っ張って回収していったのが本当に最悪だなって思いました。

あと野薔薇ちゃんが特級に逆さ吊りされてたところ、証明消えた直後の紗幕の裏で元に戻ってたの見えてたな…。光消えた後もうワンテンポ待って欲しかったな〜
あれ結構見えてるのでほんとに一呼吸くらい置かないと暗転の効果でないんですよね…

あとそう照明!!目が痛かった!!!!!!!!!!
マジで光って目を刺すんだなって思いました(目潰しで本当に目を潰すな)
芝居見てて光で目が痛いってなるほどの演出そうなくない?
わたしが見てるラインナップにはあんまりなかったですね。
プロジェクターだけにとどまらずLEDパネルがデカデカと舞台空間を占めてて、目をつぶしにきてるとしか思えない謎の抽象映像を煌々と流してるのガチで目が死ぬ。

舞台構成がどうにもなってない

1幕(前半)の駆け足ほんとひどかった。早回し映像見せられても何にもなりませんけど…?
なんかさ〜まき先輩とか含めその登場、次回作に回せませんでした?って感じだった とりあえず数出すだけ出してただただ顔のいいコスプレカタログにしただけの扱いとしか思えない、先輩たち。

作品の主体が一切見えてこない(○○編を中心に舞台向け再編集、とかが全くない)から終わってましたね。
先輩たちの登場、次回作にまとめて京都校との話をまるっと舞台化するべきじゃなかった?
夏油もいっそ0の再編集版を舞台で大々的にやることにしてそこで藤田玲出すべきじゃなかった?

前フリっぽいものをするわりには放置したまま先に進む構成

野薔薇ちゃん登場シーンでガッツリさおりちゃんの名前を出し紗幕にテロップまで出しておきながら、そのあと一切出てこないから野薔薇ちゃんのこと本当によくよく読んで解釈してそのシーン書きました??????????????ともなりましたね。
舞台で初めて呪術廻戦に触れる人も当然存在するだろうに、これじゃ情報も話もとっ散らかりすぎて意味わかんないでしょう…

こんなに早回しして夏油の存在ちらつかせる必要あった?????

夏油一生何かを匂わせるだけ匂わせて特になんの解説もせんでチラチラ出てくるだけで終わった感じありますね正直。
確かに、藤田くんの夏油が見たくてチケット取りましたけど、こんな中途半端に出されるくらいなら、たとえば続編にしっかり切り分けて丁寧に登場させてほしかったですよ。

それに夏油陣営による二幕開始時のあの茶番いるかい?
その他諸々茶番消してたら前半もあんなに駆け足で「忙しい人のための呪術廻戦」をやらずに済んだんじゃないかい?

どこを歌にするか、どこを歌にしないか

歌のシーンピックアップ(どこを歌にするか)もひどかった。
訓練シーン雑に消費された上に野薔薇ちゃんが「かわいいセットアップのジャージが欲しい💢💢(から着替えない)」って歌うだけの謎曲ぶっ込まれてましたね。
あのさあ…ミュージカルにおいて歌うって、“それが重要だから”歌うんだよね…

もちろん、他の歌ピックが丁寧になされていたら、閑話休題というか、楽しいシーンとして用意するのは正解だと思うんですが。
ほかが疎かなのにそこやられてもノイズに近いですよ…

脚演の罪

演劇は脚本が8割、その残りを占めるのもほとんどが演出であって、役者がどんなに素晴らしかろうと全部を殺していくのが脚演の罪なんですよ!!!!
ガチであんなに歌上手い人間揃えてんなら普通にミュージカルって言えばよかっただろ!?!!!?!!?!!!?!!?!!!?!そんでミュージカル書いてる人間に任せたらよかっただろ!?!!!?!!?!!!?!

主人公が死ぬ、とか呪術廻戦はかなりショッキングな画面と展開で殴る作品だと思ってるんですけど。
虎杖、死んだんか?みたいなあっさい演出と尺の取り方が下手すぎ…
わたしは、アニメでじゅんぺいくんが真人に…されるところ、ガチのガチでショックでした(なまじ呪術高専来いよ!されてたからその未来を想像してた)。

なのに舞台では、じゅんぺいくん死ぬとこ(言った)あっさりしすぎて死んでんのか死んでないのかわかんないレベルに薄味で本当にがっかりしてしまった。

そしてあそこまで「正しい死」に固執するところから始まったのが虎杖なんだから、作品で何より重く苦しく絶望として描かなきゃいけない《死》が何度もあっただろうがよ!!!!!!!!!!!!!

わたし前半で「ミュージカルではない。キャラソンで話を展開している」というような感想を抱いたんですけども、エンドロールがっつり紗幕に流されて「あ、これ舞台じゃなくてアニメがしたかったんだな」って思いましたね。
アニメ参考にしすぎた2.5ってかんじ。
原作読み解いて他にも必要になりそうな知識紐解いて熟慮したうえで、原作およびアニメのストーリーを再編集し舞台用に書きまとめるのが脚本の仕事では?

ざっくり終わりに

ほんとにもう正直前半これキッツとか思っててチケット取ったの間違いやったかなぐらいには肌に合わなくて気絶してました。
和田雅成くん演じるナナミン出てきたところからちょっとおもしろくなってきてはいたけど(他のエピを無理やり前半で終わらせてたのに対し、後半ゆっくりナナミン登場後エピを時間かけて描けたため)、それでも質が悪い。
キャストの皆さんはきっと素晴らしいものも作れたんじゃないだろうかと思える技量だったんですけど…
むしろ太田基裕くんの真人はキャスト発表された段階からきっと良いだろうと思っていて、実際よかったんですけど、役者の演技を全く信用していないのかその芝居を阻害するような演出(視覚効果、この場合はLEDパネル)までして蛇足がすぎる。

演劇って総合芸術で、リアルタイムと空間の縛りがあっても、何にでもなれるのがこのメディアのすごいところで、だから演劇としてコンテンツを再編集することに意味があると思っています。
でも今作は、アニメにも映画にもなれない演劇人の悪いところ凝縮したって感じの作品になってたよね正直。


プロジェクションマッピングの多用は逃げとしか思えないんですよね!!!!!!!!!!!!!!!!演劇老人(インターネット老人)と言われればそうかもしれませんが!!!!演出は!!!!いざという時に《だけ》切り札を使うから良いのであって!!!!!!!!多用すれはチープ!!!!
わたしはそういう意味では古典的な技法が好きなんですよね…演劇に(デジタルな)技術は求めてないからかもしれん…

もうつらかった…どうして…
うまくすれば何作か続くクオリティの高い舞台になれたはずなのに…